パスみえ、極窓、Stirling――無料ソフトがパソコンの裏側を見せてくれた時代
1997年から2008年くらいまでのインターネットには、今ではちょっと考えられないような無料ソフトがたくさんありました。
無料なのに高機能。軽い。変な広告も少ない。そして何より、パソコンの「裏側」をのぞかせてくれるような、妙なワクワク感がありました。
その代表格として、個人的に強く記憶に残っているのが、パスみえです。
パスワード入力欄に表示される「****」の中身を見えるようにするソフト。今の感覚で考えると、かなり危うい。というか、会社のパソコンに入っていたら完全に怒られそうです。
でも当時は、こういうソフトが普通にフリーソフトとして紹介されていました。「便利ツール」のひとつとして、窓の杜やVectorを巡回しながら、面白そうなソフトを探す。そんな時代でした。
もちろん、いま使うべきだという話ではありません。むしろ逆です。今では絶対に気軽に使えない。だからこそ、あの時代のフリーソフト文化の象徴として、妙に記憶に残っているのです。
ファイル名のウソを見破る「極窓」
パスみえが「伏せ字の向こう側を見るソフト」だとしたら、極窓は「ファイル名の向こう側を見るソフト」でした。
たとえば、拡張子が .jpg になっているけれど、実は中身は別の形式だった。あるいは、ファイル名だけでは何のデータか分からない。そんなときに、極窓はファイルの中身を見て、正体を判別してくれました。
今ならOSもブラウザも賢くなって、画像や動画の判別はかなり自動でやってくれます。でも当時は、拡張子を見て「これは何のファイルだろう」と考えることが普通でした。
極窓という名前もいい。「極める窓」。いかにも昔のフリーソフトらしい、ちょっと強めの名前です。
ファイルを数字の世界で開く「Stirling」
さらに一歩奥に行くと、Stirlingというバイナリエディタがありました。
画像でも、音声でも、実行ファイルでも、ファイルをそのまま数字と文字の羅列として開いてしまうソフトです。
普通の人が見ても、正直よく分からない。でも「パソコンの中身を直接見ている」感じがものすごくありました。
ファイルというものは、アイコンや名前で存在しているのではなく、実際にはデータのかたまりなんだ。そんなことを、理屈ではなく感覚で教えてくれるソフトでした。
いま思えば、少し怖い。でも、あのころのパソコンには、そういう怖さと面白さが同居していました。
消したはずのファイルが戻ってくる「復元系ソフト」
もうひとつ、当時の衝撃系ソフトとして忘れられないのが、削除したファイルを復元するソフトです。
ごみ箱を空にした。もう消えたと思った。でも、復元ソフトを使うと戻ってくることがある。これは本当に驚きでした。
「削除」とは、完全に消えることではない。パソコン上では、見えなくなっているだけの場合がある。
今ではデータ消去やセキュリティの知識として知られていますが、当時これを無料ソフトで体験できたことは、なかなか強烈でした。
便利だけれど、少し怖い。パスみえと同じく、今なら使い方に注意が必要なタイプのソフトです。
ネットが遅かった時代の必需品「Irvine」
そして少し方向性は違いますが、当時らしさでいえば、Irvineのようなダウンロード支援ソフトも外せません。
今は画像も動画も、クリックすればすぐ開きます。でも昔は違いました。
回線は遅い。途中で切れる。大きなファイルを落とすだけで、ひと仕事。
そんな時代に、ダウンロードの中断・再開や、一括ダウンロードができるソフトは本当にありがたかったのです。
今の人からすると、「ダウンロードするための専用ソフト?」と思うかもしれません。でも当時は、落とすこと自体がイベントでした。夜中に大きなファイルをダウンロードして、朝になったら失敗していた。そんなことも普通にありました。
無料ソフトが、パソコンの先生だった
パスみえ。極窓。Stirling。復元ソフト。Irvine。
いま振り返ると、どれも少しクセが強いソフトです。でも、当時のフリーソフトには、単なる便利さだけではない魅力がありました。
それは、パソコンの仕組みを少しだけ見せてくれることです。
パスワード欄の裏側。拡張子の裏側。ファイルの中身。削除の仕組み。通信やダウンロードの不安定さ。そういうものを、無料ソフトが教えてくれました。
今のソフトやアプリは、とても洗練されています。安全で、便利で、迷わず使えます。でもそのぶん、裏側は見えにくくなりました。
昔のフリーソフトは、もう少しむき出しでした。便利だけれど危うい。親切だけれど自己責任。そして、妙に自由でした。
今では考えられないようなソフトが、普通に無料で配布されていた時代。それは、個人サイトとフリーソフトがいちばん自由だったころの、少し危なっかしくて、でも楽しい記憶です。
※このコラムは当時のフリーソフト文化を振り返るものです。現在の利用をすすめるものではありません。特にパスワード表示・ファイル復元・バイナリ編集などに関わるソフトは、セキュリティや法令、社内ルールに十分注意が必要です。
